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ヤマドリその2 - Copper Pheasant #2 - Syrmaticus soemmerringii

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実は今年のはじめ数ヶ月、困っていたのだ。僕が良く通る道筋に、やたらクレイジーなヤマドリの雄が出てきて、どうにも対応に困っていたのだ。

最初、一月中旬に現れた時は、クレイジーではなくてフレンドリーと認識されていた。奥の方に住んでいる隣人の家の近くに出て、仕事してたら、後でこっこっこ、って声がするのよ。振り返ったらヤマドリでびっくりしちゃって。ヤマドリってそんな鳥だったかしら。いえいえ、きっと何かそれは訴えたい儀があるんですよ、つづらを聞かれたら、小さい方のつづらって答えるといいですよ、なんていう長閑な話の題材になっていた。それがだ。

奴と僕がはじめて道で出会った時、奴は薮から堂々と姿を顕して、臆するところは全くなかった。僕はやっぱりこれはつづら案件かなぁ、などと考えながらウヒヒとシャッターを切っていたのだ。ちょっとおかしいな、と思ったのは、あまり近くによってきて、もう超望遠では手に負えなくなってきたので、少し距離を空けようと後ずさりしたら、とととっと迷わず向こうから距離を詰めてきた時だ。え向こうから?何かおかしい。

↓一月。この頃はまだ眉の上の冠羽が立っていない。
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三回目くらいに会った時、まだ二月で、奴はこっこっこ、ではなくて、ゴゴ、ゴゴ、とドスの効いた声を絞り出しながら、雪を踏みしめてやって来た。眉の上の冠羽が立っている。そしていきなりタタタッ、と寄るなり、じゃっ、と僕の腹に跳び蹴りを繰り出した。これには驚いた。本当はフレンドリーではなかったのか。僕のまわりをゴゴ、ゴゴ、と警告しながら、隙を見るとまた跳び蹴り。ここから出て行けと言っていたのだ。

五回目くらいの時になったら、もう奴はまったく躊躇しなかった。来たな〜お前かっ!と向こうから走ってやって来て、すぐ跳び蹴り。跳び蹴られても腹の高さまで、大人だから手で払えばそんなに実害はないのだが、それでも嫌だから持っている一脚を差し向けて防衛すると、今度はカーボンファイバーの一脚をカン!カン!と硬い嘴で突っついてゴゴゴと怒りの声をあげる。隙をみて走って逃げると、首をひくく伸ばし、障害物だらけの薮の中を突き進んで、その速度は林道を走る僕に全く劣らない。そしてその追撃は僕が縄張り(約500m x 100m)を出るまで続く。

↓こうやって走ってやって来る
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いちど意を決し、今の僕のほんとうの全速で50mほど走って逃げて、ぜいぜいぜい、と大息をついていたら、待つ間もなく後からちゃっ、ちゃっ、ちゃっ、と足音が聞こえてきて、僕は本能的な怖れを感じた。しかも振り返ると、全く平然としている。そして戦いながら、嚇しながら、ちゃっかりと何やら食べ続けているのだから、兵站の問題もないのだ。奴の心の炎がいちばん燃え盛っていた頃は、最初に話の出た隣人の、走行中の車にも怯まず跳び蹴りをしてきたという。

何と云うか今まで、キジやヤマドリなどの、いわゆる「地面鳥」は、弱い創造物だと思っていた。人間のみならず、キツネやテンから逃げ惑い、身を隠して生き延びている鳥、というイメージ。しかしそれはどうも違うようだ。こいつらは強い。さすがに恐竜の直系。これだけ強ければ、生半可なキツネでも厳しい戦いになるだろう。そして、いよいよとなれば飛んで逃げることもできる。ヒクイドリの例を挙げるまでもなく、もう一回り二回り大きければ、、と考えるだにおそろしい。

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↓もっとローアングル、同じ視点の高さから撮りたかったのだが、そうすると隙あり!と攻撃してくるので能わず
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ネットで検索すると、確かに全国で稀にある現象ではあるようだ。煽ったら車の助手席に飛び乗ってきたとか、ハイキングコースに居座って困ったとか、ヤマドリ注意の看板とか、そういう事例にもいきあたる。昔から、雄同士の縄張り争いは死ぬまで続く。鏡を見せると鳴く。雌と同居しない。など色々執着の強さは言われている鳥ではあるが、モチベーションの根本が巣や縄張りの防衛としても、今回の雄は全く異例のできごとであった。なんだろう?トキソプラズマ?いや大昔から時々あることなのだろうか?

これは夏まで続くのかなあ、と憂いていたら、先方の事情が変わったらしく、プーチン対ガンジーの戦いは、約二ヶ月半を経て四月前半、終戦に至った。怖れ知らずの個体だけに事故、ということも考えられなくはないが、隣接する縄張り(うちの周り)に時々テンを従えて出没していた別の雄(人間にも存在を主張するが、襲っては来ない)もほぼ同時に出てこなくなったから、たぶん、なんとかホルモンの関係であろうと推測している。

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↓ライチョウの面影がある
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しかし、特に夕刻、戦いながら見る逆光のヤマドリは、英語の名前の如く赤銅色に輝いて、しびれるほど美しかった。尾も、目の周りの皮膚もすばらしいが、何より目を奪われたのは、幾何学模様の羽に包まれて、からだの動きとともにふわふわと、漂うようにやわらかく形を変える丸い胸。なにか鳥を見ているというより、不思議な球体を見ているようだった。そして、見ているだけで鼓動や体温が直接伝わってくるような気がした。

森の王様。達者でやってもらいたい。

↓おまけ。こうやって伴走してくる。今考えると最高だが、その頃は嫌で仕方なかった。
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今回はスペシャル増補版でお届けしました。一回目は
こちら


[2023/01-02 - 長野県 - 約60cm - 個人的博物館本館のキジ・ウズラのなかまへ]
[photo data : 01-02/2023 - Nagano, Japan, Japan - about 60cm L - go to "Landfowls" in the main site]


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