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[這いずり日記] シオシオのパー。水の巻その五~長野方面2019/11

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ダラダラと続けておりますが(笑)、辛気臭いのは今回で一旦終了。行きがかり上、昨年11月の残り(水以外)を二回くらいに分けて出して、あとはまた次のロットということにいたします。

ここまでの話
水の巻、その1
水の巻、その2
水の巻、その3
水の巻、その4

というわけで前回からの続き。連載第三回というか第五回と言うか。

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震災後、僕が東京に嫌気をさし、長野に小屋を建てると決めた時は、秋、冬、何度も一緒に現地に足を運んでアドバイスをしてもらった。地下水を汲上げるポンプの配置、基礎の施工法、断熱や構造、考えてみれば O の助言に拠っているものは多い。ただ、O が夜更かししてエンピツで描き上げた間取り案については断固、全面的に拒否させてもらった。本人は俺の建築家人生の中で、あそこまで否定されたことは初めてだとかずっとブツブツ云っていたが、O には個人の住居の設計は無理、何も判ってないというのが僕の判断だ。

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ここ数年のことは、いろんな意味で、少々書くのが難しい。かい摘んで述べれば、O はちょっとした奇病を得て、僕の意見では病院の不手際もあって、治癒はしたものの下半身に麻痺が残り、車椅子生活を余儀なくされた。O は今まで以上に途方に暮れて、今まで以上にメソメソと淋しがりになった。本人は前向きに進んでいるつもりでも、殻を失ったヤドカリのように、もと居た場所に全力後退しようとするのが痛ましかった。僕は、冬山で遭難し意識を失いそうになっている同行者をひっぱたくような気持ちで O に接した。ともすれば空しいとか建築にはもう興味をなくしたとか言い出す O に、正直なところ苛々もした。そんなこんなで二、三年。そして、やっと、O が本来のペースを取り戻してきたな、と一息ついた頃、O が倒れたと電話が来た。たぶん肺塞栓、頓死だった。

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葬式は賑やかだった。何回か一緒に僕の小屋に来た息子も大きくなって立派な弔辞を述べたし、家族は泣き、障害者仲間からは心のこもったメッセージが届いた。飲み友達、仕事仲間、僕の知らない知己がたくさん来て、悼む気持ちがたしかに伝わってきた。変な言い方だが、ちょっと思いがけない、よい葬式だった。若い頃、どういうバラ色の将来を思い描いていたのか、いつか俺が死んだら葬儀委員長をやってくれ、と頼まれたことは勿論憶えていたが、その話は胸に仕舞っておき、心に残すことにした。

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まぁ、そんな感じだ。こうやって振り返ると、最初から最後まで、不本意なことも多い人生、そして不条理 - 本人には判らないことだらけの人生だったような気もするが、ナーニ、僕にしても他の人間にしても、判ったような顔をしているだけで何が判っている訳でもない。あの世では安らかにとか、いや思う存分酒を飲めとか、月並みを言う奴が多いが、僕の意見は違うな。Oよ、あの世でも、生まれ変わっても、壊れたセンサーなんか気にせず、思う存分カプカプと人の手を噛みまくれ。空気だ節度だなんて馬鹿げたものを気にせず、澄まし顔の連中に吠えかかれ。俺は味方だ。以上。

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水の巻、その1
水の巻、その2
水の巻、その3
水の巻、その4
水の巻、その5 <- いまここ
地の巻、その1
空の巻、その1


[写真撮影 : 2019/11 - 長野県] [photo data : 11/2019 - Nagano]

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