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[這いずり日記] 甑島 2015/春

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理事が一週間フランスに行くというので、僕は甑島に行くことにした。


甑島列島は小学生の時から行きたかった島だ。地図を眺めるのが好きだった僕は、地図上では種子島にまけないインパクトがあるのに、全く情報が得られないこの場所に強い興味を抱いた。早速コシキという漢字を覚えて、以来四十余年。こういうのは縁が大事、しかも原発が再稼働でもしたら、桜島が大噴火したら、行く気も失せるだろうから、今が吉日と即断した。

滞在中に台風も通過したし、梅雨っぽくてよく雨が降ったが、できるだけ時間は自然が豊かそうな下甑島に割り振り、川内で調達した125ccのバイクを駆使して、山に上り、また浜に降りて一週間の冒険をたのしんだ。地形も自然の力も強力で、山を進んで行くと、道は荒れ、ひと気はなく、ちょっと怖いくらい。一方で、戦後は今の四倍の人口がいたという歴史のある列島で、道や、史跡や、過去の住民の痕跡があちこちに残っているのも、実は怖い。五感と第六感の感度を精いっぱいあげて島をめぐった。

まだかろうじて残っているような部落もあるが、おおむね、陸上の通行はあまり考えていない立地だ。入り江や浜の後ろに家々が立ち並び、背後には山がそびえている。基本的には交通は海路で、半漁半農(段々畑)の暮らしを、部落毎に独立して営んでいたらしい。今はどこの部落にも自動車の道が通ったが、平地や換金できる産物を欠く上に、近年漁業資源が枯渇し、人口の流出が止まらない。とうとう、車通りもあまりないのに、島と島の間に橋を架けている。公共事業による雇用の確保だと思うが、結局島外の労働者が担当しているし、何より考え方がおかしい。

鳥はそれなりに豊かだった。撮影は出来なかったが、山間部にカラスバト。島嶼の例に漏れず、
ヒヨドリ、カラス、メジロキジバト、それからイソヒヨドリ。稜線にハヤブサ。そして、ひと気のなくなった西側のワイルドな斜面に、ブッポウソウの夫婦。沿岸の海上にカツオドリやカンムリウミスズメ。頭上にはハリオアマツバメ。今年はマムシが多いというので薮に入るのが躊躇われたが、ヒタキ類、ムシクイ類、それなりの種類の鳴き声が聞いて取れた。一方虫は、種類に乏しい印象を受けた。ただモンキアゲハは多い。

ただ宿で島出身の人と話すと、つい数十年前の思い出と現実の間の落差が実に大きい。ウミガメが産卵しに来ると家族でバケツをもって掘りに行ったとか(塩漬けにして疫痢の薬にしたらしい。ただ、今回
アオウミガメは観察できた)。学校帰り、ウナギや鳥を取って帰るのが男子中学生の楽しみだったとか。海に入ると、大きな魚がうようよいて子供には怖かったとか。浜に波が返すたびに、打ち上げられるものがあったとか。豊かだと思っていた眼前の風景との違いに愕然とする。

釣りの本で、大漁には過去形の話しかない、というような文を読んだが、民俗にしても、自然にしても、僕の求めるものは、どうしてみな滅び去る道の途中なのだろう。いや、滅び去るものが好きなのか、と言われればそういう気もするが。

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写真は大盤振舞で。

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↑滅びゆく孤高の限界集落、内川内の高巌神社

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がんばれホテルニューこしがや、じゃなかったフェリーニューこしき

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↑下甑島の頂稜。マムシは出ず。

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どうせ車なんか通らない、静かな山の水たまり

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↑島内の道は目が覚めるくらいの緑、苔むして。(すべってちょっと怖い)

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瀬瀬野浦。集落は常に眼下に現れる。

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二次林だが、それなりに深い。カラスバトが飛び交う。

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↑そしてニューこしきへ


[写真撮影 : 2015/05 - 鹿児島県・甑島] [photo data : 05/2015 - Koshiki Islands, Kagoshima, Japan]
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