[這いずり日記] さよなら MG RV8
07/17/13 01:39 category :miscellaneous
本来の趣旨とは全然違うけれども(笑)、ほかに書くところがなかったから車のことを書いておく。ある種のラブレター。
鳥獣虫の観察ばかりしているから、あちこちで車は四駆だと思われているけれど、実はオープンのスポーツカーだ。林道を走るには全く不適合だが、舗装さえしてあればボディは巾狭で簡便だし、何より上下左右、周囲の鳥の観察は他の追随を許さないから、これはこれで便利に使ってきた。
思い起こせば17年前、四駆からこれに乗り換えた時は、もう僕にとってこれが最後の普通のガソリン車になるだろう。ならば最後の「自動車」は自動車らしい自動車に乗りたい、というのが選択の大きな動機だった。思っていたより長く、いつの間にか17年も乗ってしまったにもかかわらず、予想に反してまだガソリン車は走っているのだが、まぁこれはこれで良い判断だったと思う。
スポーツカーといっても、先代の小さなマーチにトランクを付けたくらい、50年前の設計(だいたい運転手と同い年だ)の小型ボディに、やはり50年前にアメリカで産声をあげた 3.9リッターのV8エンジンを積んで、電動なんとかとか、パワーなんとかとか、そういうデバイスとはほぼ無縁(燃料噴射がECU制御なのと、ブレーキだけサーボアシストがついている)の車だ。買う前から据え切りをすると腕をつるという話は聞いていたが、ハンドルも、クラッチもやたら重たくて、しかも走らすと全然曲がらないので最初の頃はずいぶん難儀した。
しかししばらくして、ある時点で啓示のようにわかったのだ。この車は、正しいタイミングで正しい運転操作をすると、実は流れるように旋回する。失敗すると腕力でねじ伏せるしかない。それからはコーナーが待ち遠しくなった。ロールも少ないし、車からはヒントをあまりくれない。デバイスの手助けはないから両手両足の勝負。そして曲がった後に必ず採点はしてくれる。その意味では確かにスポーツカーなのだった。
とは言え洗練というよりは豪快、小回りの利く車ではないので、低速コーナーは苦手。重いクラッチに疲弊した足下に熱風が吹き付ける渋滞は地獄。別に気難しい性質ではないが、エンストするとしばらく口をきいてくれないくらい不機嫌。一方、そういう欠点を補ってあまりあるのは高速コーナーとハイウェイのレーンチェンジ。モダンなレンタカーに乗った旅から戻り、空港で自分の車を動かすと、あまりの面倒くささに最初はクラクラするが、一つ目のコーナーで、思わず「ヤッホー」と叫んでしまう、そういう車だった。ホテルや駐車場で、移動のために人にカギを渡すと、たちまちエンストして不機嫌を顕にするのもオーナーとしてはうれしい。
トラブルが多いんじゃないですか?とよく聞かれたが、さほどでもない。買う前に少し心配になって、当時のパソコン通信で尋ねたところ、英国車通の皆さんはおおよそ「この車には壊れるようなものはついてないから路上で止まるようなことはない。大丈夫。」という意見だった。そしてそれは正しかった。17年の共同生活で、一時間だけドアが閉まらなくなったこと、逆に一時間だけドアが開かなくなったことがそれぞれ一回ずつ、休憩後エンジンが突然かからなくなったことが二回(オルタネータらしい。一時間冷やすと直る)。オーバーヒートが一回。フロントスクリーン基部の腐食が一度。まぁいずれも神秘的、というか愉快なトラブルで、むしろ笑顔とともに思い出す性質のものだ。
ここ何年か、さらに長い間キープするか、乗り換えるか、迷いに迷っていたのだが、結局、今回売ることにした。さすがに17年、ダンパーはへたり(要調整)、リジッドのリアサスは寒くなるとキコキコ鳴き(要ブッシュ交換)、少し大きな手を入れる必要がある。ならば新しいオーナーが自分の判断で整備した方がよいだろう。それにやはり震災以後、自分も世の中も変わり、色々なものが終わってしまったので、それに合わせて一区切り、という思いも大きい。
次の車はモダンな四駆にすると決めたが、パワーウィンドウ、パワーステアリング、オートマ、FFベース、屋根付き、五人乗り、ESC、エアバッグ、ちゃんと動くエアコン、いろんなものが当家としては初めてとなる。僕も「初めて車内で音楽が聞こえる」という愉しみはあるとは言え、むしろ戸惑いが大きい。理事も「今の車の方がかわいい」「わたしパワーウィンドウって嫌い」とかさんざんブー垂れていたが、いざ納車が決まると「ふとんをクリーニングに出せる」と喜んでいた。まぁ、こういう風に馴染んでいくのだろう。
2000回転から先、「仕事?」と言わんばかりに「んー、んー、」と急にまとまってくる、斜に構えたような声。そこからアクセルを戻した時に発生する、「バララッ、バララッ、」という昔のV型エンジンならではの愉快そうな音。こうした音や、独特の匂いにあと二週間でお別れかと思うと、それにしても心から寂しい。えーん
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最後に(もう個体数が少なくなったからあまり憶えている人もいないと思うが)いくつか間違った噂を否定しておきます。×[この車はフロントヘビーで曲がらない] -> 前後重量比ほぼ 50:50です。x[4L級のエンジンで社会不適合] -> 高速右車線120-140流し+田舎道で 10km/Lくらいです。生涯最高値は 12.5km/L でした。まぁそりゃトヨタのハイブリッドには敵いませんがね。
[写真撮影 : 2013/07 - 長野県/東京都] [photo data : 07/2013 - Nagano Pref./Tokyo]
思い起こせば17年前、四駆からこれに乗り換えた時は、もう僕にとってこれが最後の普通のガソリン車になるだろう。ならば最後の「自動車」は自動車らしい自動車に乗りたい、というのが選択の大きな動機だった。思っていたより長く、いつの間にか17年も乗ってしまったにもかかわらず、予想に反してまだガソリン車は走っているのだが、まぁこれはこれで良い判断だったと思う。
スポーツカーといっても、先代の小さなマーチにトランクを付けたくらい、50年前の設計(だいたい運転手と同い年だ)の小型ボディに、やはり50年前にアメリカで産声をあげた 3.9リッターのV8エンジンを積んで、電動なんとかとか、パワーなんとかとか、そういうデバイスとはほぼ無縁(燃料噴射がECU制御なのと、ブレーキだけサーボアシストがついている)の車だ。買う前から据え切りをすると腕をつるという話は聞いていたが、ハンドルも、クラッチもやたら重たくて、しかも走らすと全然曲がらないので最初の頃はずいぶん難儀した。
しかししばらくして、ある時点で啓示のようにわかったのだ。この車は、正しいタイミングで正しい運転操作をすると、実は流れるように旋回する。失敗すると腕力でねじ伏せるしかない。それからはコーナーが待ち遠しくなった。ロールも少ないし、車からはヒントをあまりくれない。デバイスの手助けはないから両手両足の勝負。そして曲がった後に必ず採点はしてくれる。その意味では確かにスポーツカーなのだった。
とは言え洗練というよりは豪快、小回りの利く車ではないので、低速コーナーは苦手。重いクラッチに疲弊した足下に熱風が吹き付ける渋滞は地獄。別に気難しい性質ではないが、エンストするとしばらく口をきいてくれないくらい不機嫌。一方、そういう欠点を補ってあまりあるのは高速コーナーとハイウェイのレーンチェンジ。モダンなレンタカーに乗った旅から戻り、空港で自分の車を動かすと、あまりの面倒くささに最初はクラクラするが、一つ目のコーナーで、思わず「ヤッホー」と叫んでしまう、そういう車だった。ホテルや駐車場で、移動のために人にカギを渡すと、たちまちエンストして不機嫌を顕にするのもオーナーとしてはうれしい。
トラブルが多いんじゃないですか?とよく聞かれたが、さほどでもない。買う前に少し心配になって、当時のパソコン通信で尋ねたところ、英国車通の皆さんはおおよそ「この車には壊れるようなものはついてないから路上で止まるようなことはない。大丈夫。」という意見だった。そしてそれは正しかった。17年の共同生活で、一時間だけドアが閉まらなくなったこと、逆に一時間だけドアが開かなくなったことがそれぞれ一回ずつ、休憩後エンジンが突然かからなくなったことが二回(オルタネータらしい。一時間冷やすと直る)。オーバーヒートが一回。フロントスクリーン基部の腐食が一度。まぁいずれも神秘的、というか愉快なトラブルで、むしろ笑顔とともに思い出す性質のものだ。
ここ何年か、さらに長い間キープするか、乗り換えるか、迷いに迷っていたのだが、結局、今回売ることにした。さすがに17年、ダンパーはへたり(要調整)、リジッドのリアサスは寒くなるとキコキコ鳴き(要ブッシュ交換)、少し大きな手を入れる必要がある。ならば新しいオーナーが自分の判断で整備した方がよいだろう。それにやはり震災以後、自分も世の中も変わり、色々なものが終わってしまったので、それに合わせて一区切り、という思いも大きい。
次の車はモダンな四駆にすると決めたが、パワーウィンドウ、パワーステアリング、オートマ、FFベース、屋根付き、五人乗り、ESC、エアバッグ、ちゃんと動くエアコン、いろんなものが当家としては初めてとなる。僕も「初めて車内で音楽が聞こえる」という愉しみはあるとは言え、むしろ戸惑いが大きい。理事も「今の車の方がかわいい」「わたしパワーウィンドウって嫌い」とかさんざんブー垂れていたが、いざ納車が決まると「ふとんをクリーニングに出せる」と喜んでいた。まぁ、こういう風に馴染んでいくのだろう。
2000回転から先、「仕事?」と言わんばかりに「んー、んー、」と急にまとまってくる、斜に構えたような声。そこからアクセルを戻した時に発生する、「バララッ、バララッ、」という昔のV型エンジンならではの愉快そうな音。こうした音や、独特の匂いにあと二週間でお別れかと思うと、それにしても心から寂しい。えーん
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最後に(もう個体数が少なくなったからあまり憶えている人もいないと思うが)いくつか間違った噂を否定しておきます。×[この車はフロントヘビーで曲がらない] -> 前後重量比ほぼ 50:50です。x[4L級のエンジンで社会不適合] -> 高速右車線120-140流し+田舎道で 10km/Lくらいです。生涯最高値は 12.5km/L でした。まぁそりゃトヨタのハイブリッドには敵いませんがね。
[写真撮影 : 2013/07 - 長野県/東京都] [photo data : 07/2013 - Nagano Pref./Tokyo]
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