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[這いずり日記] 八丈島 2012/早春

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理事がまた海外で仕事があるというので、ならば大東島の続きで南西諸島か、あるいはいっそ吐噶喇にでも、などと皮算用をしていたのだが、理事の仕事は直前にキャンセル。二人ともぽっかりと予定があいたので、久しぶりに一緒に出かけることにした。


とは言っても、理事は仕事で疲弊しており、身内に入院している者もいるのであまり大掛かりなのは嫌だという。それなら、ということで以前から何回か検討していた八丈島流しを実行に移すことにした。時節柄、富士に連なる火山島、と聞いて理事の眉毛が不安にぴくぴくとしたが、飛行機を降りたらそこが既に目的地、とか何とか適当なことを言って説得に成功した。

着いてみるとよい天気だ。三泊しかないから動物の少なそうな西山は最初から捨てて、東山の周囲を丹念に歩く。しかしながら理事の疲弊が予想以上で、最初のうちはブツブツ言いながらまだ歩いていたが、二日目の午後になるとそのブツブツの声が段々大きくなって来る。宥めたり賺したりするのももう限界で、三原山の頂上のちょっと手前、とうとう、私は休みに来たので疲れに来たんじゃない!と言うなり、道にごろん、と横になって薩摩芋のように動かなくなってしまった。疲れ切っていても昔なら、私は大丈夫よ、とか殊勝なことを言って付いてきたものだが、まぁお互い若くないからこれも仕方がない。

だから休養日に充てた三日目の暴風雨が上がった最終日、宿の朝食までに戻る予定で、夜明けとともに一人で抜け出した。朝日の差し込み出した東山の中腹で腰を下ろしていると、チュリチュリと頭上で聞きなれぬ声がする。イイジマムシクイだ。見ると、小さな体を鞠のように真ん丸に膨らませた二羽が、お互い見つめあって羽を震わせている。風が吹こうが、3m直下で猿がシャッターを切ろうが、もう全くお構いなし。枝を渡り、ひっくり返り、右に寄り、左に寄り、ただ一心に二羽見つめあって、叫び、また羽を震わせる。

時期と行動から見て、おそらく南方からはるばる海を越えて渡ってきたばかりなのだろう。危険な長旅を終え、目的地に着いて、生きていて、病もなく、なわばりを確保し、配偶者を見つけた、この絶滅危惧種の短い一生のハイライトとも言える瞬間に立ち会っていると思うと、こちらにも無量の感慨が伝染してくる。光が反射して眩しい。結局時間ぎりぎりまで、このムシクイのつがいを眺めた。

朝食後荷物をまとめてどこに行きたいか?と理事に尋ねると、そのイイジマムシクイの場所がいい。というので、昼前にまた同じ場所に上った。二羽の儀式はとうに終わっていたが、歩いて行くと一羽だけ林の奥から現れて、今度は理事の頭上で、司祭が祝福を与えるかのように、ピィ、ピィ、と大きな声でさえずった。

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[写真撮影 : 2012/04 - 八丈島] [photo data : 04/2012 - Hachijô Island, Japan]
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