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オオミミハリネズミ - Long-eared Hedgehog - Hemiechinus auritus

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ゴビに下りてきた途端に暑くて寝苦しくなったので、ゲルの扉を開けて寝ていた。朝起きて床を見ると、イタチの糞みたいな糞が二つしてある。まだ新しい。おいこれは何ごとだ、と懐中電灯で探してみると、いたいた、寝台の下で何か頓馬な哺乳類が右往左往しているのだった。

取り敢えず最低限の証拠写真を数枚撮って、まずは外に出そうとしたのだが、これが存外難しい。普通は、脅かせば、いや何もしなくても、一目散に外に出ていくのが哺乳類としての通常反応だと思うが、手許にあった一脚を伸ばして突っついても、寝台の下から出てこない。「おい外に出ろよ」と一脚でぎゅうぎゅう押すと、何を思ったかぎゅうぎゅう押し返してくるという反応が新鮮で面白い。

基本的に非常時には、無防備な顔をどこか凹みに埋めた上で、背中の針を立てて防御姿勢を取るものと見えるが、針を立てるには肺活量が必要らしくて、いちいち鼻をゲルのすき間に突っ込んでは、「フーッ」「フーッ」と空気を吸い込む(たぶん)音を立てるのも、何となくゆるそうでいい感じだ。まぁいつまでも遊んでいるわけにも行かないので、一脚で力任せにベッドの下から押し出して、ゲルの枠に鼻を突っ込んだところに横からプラスチックのゴミ箱を差し込んで捕獲した。

ちょっと観察しようとも思ったが、捕獲中の獣は撮影しない方針だし、見るとすっかりしょげていて気の毒になったので、すぐゲルの外に放つ。今までの態度からみてしばらくモタモタするかな、と思ったのだが、そこは野生動物で、脱兎の如く、とまではいかないが、意外なスピードでタタタタタッとゴビ砂漠目指して走り出したので意表を突かれた。

これでは撮影できないから、慌ててカメラを握りしめて全速疾走し、先回りしてハリネズミの進行方向で待つ。するとハリネズミ、僕の近く、5mくらいのところまでタタタタッと走ってきて、怪訝そうな顔をして立ち止まる。しばし、写真を撮っている僕を不思議そうな顔をして眺めていたが、そこから歩みを緩め、トコトコと優しげに僕のところまでやって来て、最後はクンクン、と靴の匂いを確かめてから、またタタタタッとゴビ砂漠に走り去っていった。

オーストラリアのハリモグラもそうだったし、針があるだけに哺乳類の外敵には案外無頓着、ということなのかもしれないが、個人的には「命を救ったハリネズミが逃げ去る前に僕に感謝のキスをしていった」うつくしい寓話として都合よく記憶しておくことにした。

写真は立ち止まったところが二枚、タタタタッと走るところが一枚。

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[写真撮影 : 2012/08 - モンゴル・ゴビ - 約20cm - 個人的博物館本館の乾燥地帯・サバンナの哺乳類のページへ]
[photo data : 08/2012 - Gobi, Mongolia - abt 20cm L - visit the main museum ('
Mammals Found in Savannah, Semi-Desert and Arid Grassland')]
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